カサンドラへ



 

〜 雨宿り 〜


さぁぁぁぁぁぁぁぁ…


乾いた大地に

降りしきる雨




からからの土地に

染み込み

乾燥した空気も

潤していき


赤銅色の岩に降りしきる雫は流れ

小さな小川を作っていく

滅多に無いこの突然の土砂降りに

カサンドラへの行程で

たまたま見つけたこの洞窟



一時の雨宿り

入り口の近くで

身体を壁に預け

空から落ちてくる水滴を眺める

足元にはぴちゃん、ぴちゃんと

小さな水溜り


なかなか止まんな…

そうぼんやりと考えていると

そっと近付く人の気配

振り返れば

先程奴の傍で座っていた彼女が

こちらに来たようだ



『いいのか?』

『邪魔したくないもの…』

ならこちらは邪魔していいのかと言うのを辛うじて堪え

少し離れた洞窟の奥で

人を寄せ付けない空気を作っている

奴を見る

多分、頭の中はこれから救いに行く

北斗の次兄―トキの事で頭が一杯なのだろう

一本気な奴の事以前話を聞いただけでも

トキには並々ならぬ恩と尊敬、信頼

そして

後ろめたさも抱えている

『本来なら彼が北斗神拳正統継承者だった…』

そう奴が語った時の顔は無表情ながらも

悲しみと悔いが入り混じっていた

その顔を見たからこそ奴がそこまで

思い入れる男に会ってみたいと思ったのだ

そして、彼女も

奴のその姿を見たからこそ

何かをしたいと思ったのだろう

あの時

俺が偽のトキの情報を掴み

彼女に話した時

瞳がきらきらと輝き

自分がなにか奴のために出来ると確信し

俺に向け

『貴方はすぐにその事を彼に報せに行ってあげて!!』

それに返し

『お前はどうするんだ?』

『私は、本当のトキの居場所を探ってくるわ』

『危険だぞ』

そういう俺の言葉をものともせず

するべき事の見つかった村の女リーダーは

『平気よ!貴方こそ迷ったりして遅れたりしないでよね』

生き生きとはちきれんばかりの笑顔で

すばやく行動を起こした

待ち合わせの場所を決めた後

颯爽とバイクを駆り砂漠の大地を

走り出すと砂埃を舞い上げ村を出て行き

徐々に遠く小さくなる後姿を目にしながら

『熱い女だ…』

そう思った





しとしとしと…

雨はまだ止まない


今、隣に居るこの女は

あの時の勢いはなりを潜め

ただ離れた所で奴を見守っている





『帰れ!』

奴に拒絶された後


俺の言葉に遠ざかろうとしている奴を見つめながら

『ただあの人の悲しみをほんの僅かでもすくい取ってあげたいの…』

静かに言い放つ彼女の言葉に

僅かながら不安の蔭がよぎり

『死ぬ気か…』

彼女の肩へかけた手に力が入る

この女が散る姿など目にしたくもない

己のそんな気持ちなど構うことなく

肩に掛けられたその手を振り払い

あの時とは違い覚悟の決まった

柔らかい笑顔を俺に向けた後

迷わず奴を追いかけていく…

報われぬ愛に旬ずる哀しい女

だが、やはり情熱に身を焦がす熱い心を持っていると感じ

ならばそれに敬意と祝福を

そして

俺の想いを

あの、鐘の音と共に

静かに…


送った――


気付かなくていい

そう、思って









ひゅぅぅぅぅ…


風が吹いてきたようだ

ぶるっ

横目で見ると

雨と冷気に混じった風をうけ

僅かに震える彼女が居た

奥へ入るか…そう考え

促そうとしたとき


『もう少し、ここでいいわ』

『 ?』

『貴方は冷えるでしょ、奥へいったら?』

俺の行動を見通したかの発言に多少戸惑ったが

このまま一人にする気にもなれず

さり気なく彼女に

なるべく風があたらぬようにと

身体をずらす

『レイ?』

『俺もここで良い』

不思議そうに俺を見つめた後

『そう…』

それ以上は追求せず、そのまま外を眺める










灰色の雲の下


光の差し込む隙も無く






ざあざあざあ


雨はまだ止まない…




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