北斗の兄弟   −トキ−観戦




彼女が捕えられていると聞き急ぎ

その場へ向うが

あくまでも戦うのは先頭に立つ男

自分達は見届け人

いわばセコンドの役割になる

他に勝負以外のアクシデントで

何かが起った時には

各々で村を護るように弟と決めたが

敵側の男が彼女に見える死兆星の事を

告げた時は正直焦った

今の彼を動かすのは彼女への想いのみだったから

その彼女に死期が近付いていると知れば

ショックで心霊台を突いた瞬間の様に

血管が浮いたり

肉がぼこぼこ唸ったり

滝のように血が噴出したり

背中がシャチホコも真っ青?な位に

反り返るんじゃないかと心配したが…

思い出しても凄まじい出来事ではあった

あそこまで激しい作用があるとは思いもせず

ごきごきと骨も軋み人間には到底無理だと思える

体勢にまで曲がるものだから

ちょっと目を逸らしたいとも思ったが

医者としてそれは拙いと思い直し

彼が痛みに耐えぬき、収まるのを暫し待った

静かになり何も反応が無いまま時間が過ぎ


 【ちく、たく、ちく、たく――…ぼーん】


……失敗か?


私の見込み違いだったのかと少し落胆しかけたが

ぴきぴきと彼の身体が動き始めてゆき

手足が痺れたのか多少手間取りながらも

あの体勢から立ち上がれたのは見事だった

この症状は記録に残すべきかどうかも迷う所で

かなり特殊な症例でもあるし

これから語り継がれるであろう

愛する者の為に戦い

死ぬほどの痛みに耐えぬいた男に対しての

不名誉な1ページを飾りそうな気がする

今後、北斗神拳を扱った医療奉仕など

引き継ぐ者が居るかどうかも疑問が残るので

これは私の胸に留めておいた方が良いのではないかとの結論に至った

後々の憂いを断つ事を私が決めた事など知らずに彼は

精神的ダメージも受けたようだがすぐに立ち直り彼女の為だけに

命を捧げると決意も新たに戦いへと身を躍らせる

…………

……あれほど手足も曲がっていたのによく動けるものだ

名は伏せて珍しい一症例として残しても良いかもしれない

いや…拳法の名で丸分りになってしまうだろう、

だが……こうすれば?

それよりも――…ううむ〜

苛烈な闘いを前に一人の医者があれこれ

思考を巡らせ葛藤しているなど知りようも無く

水鳥の拳士の命をかけた勝負は続いてゆくのであった



おわり



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