星の彼方




美しく咲き誇る花
子供たちのはしゃぐ声
人々の笑顔
あの頃とは違う平穏な風景・・・
心残りはなかったはず・・・
だが・・・
その光景を眺めながら、ふとため息をつく。 



「やはり忘れ形見が心配か?」


黙って頷く

この男にだけは嘘はつけなかった。
ここに来る前に世話になった男だ。
彼がいなければ、目的を果たせぬまま
最期を迎えていたに違いない。
そして、こうして我が子の姿を見る事も。


「お前に、よく似ているな・・・」


無邪気にはしゃぐ子供たちを見つめながら 呟く。



「トキ・・・本当に感謝している。
 こうして、我が子の姿を見守る事ができるのも
 あなたのお陰だ。」



「レイ・・・会いたいか?」



「・・・・かなわぬことだ・・・」



彼女を、そして我が子を
この手に抱きたい・・・ぬくもりを感じたい。
しかし、それはかなわぬこと・・・

そう思っていた。



****************************************************



「レオ、もう寝る時間よ。
 パパにおやすみを言いなさい」



「おやすみなさい・・・パパ」



星空に語りかける母と子。
おはようとおやすみは二人の日課だ。
彼女は亡き夫に、
幼い少年はいつか会えると信じている父に。



「ママ・・・明日は晴れるといいね」



「そうね。明日は七夕だものね」



「晴れたら、願いが叶うんだよね。
 だから、ボク、お星様にお願いしたんだ!」



愛くるしい瞳でマミヤを見つめるレオ。
その瞳は、今もマミヤの心の中で輝き続ける
レイの瞳・・・そのものだった。



「レオ、何をお願いしたの?」



「ヒミツ・・・いくらママでも内緒だよ」



「あら、意地悪ね!」



「願い事は、誰にも話しちゃだめだって
 リンが言ってたもん!」



「そうだったわね。
 じゃあ、ママの願い事も、ヒ・ミ・ツ。
 さぁ、もう寝なさい・・・」




レオが眠りにつくとマミヤは一人呟いた。



「レイ・・・
 明日はレオの誕生日なの。もう3歳になるのよ。
 あの子、あなたが帰って来ると信じて
 ずっと待っているの。
 だから、そろそろ本当の事を話さなくちゃならないわよね。
 でも、あなたの帰りを楽しみに待っているあの子の姿を見ると
 どうしても本当の事が言えなくて…。」



ふと、窓辺に置かれた七夕の短冊に目を向ける。
レオの描いた父親の姿があった。
その横には、「パパ」。マミヤにはそう見えた。
まだ幼いわが子が描いた、一度も見たことのない父親の姿。
レオの願いもまた、 自分と同じである事は痛いほどわかっていた。





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「ママ、今日はいいお天気だよ!
 きっと願い事叶うよね!!」


「そうね! ママの願いも叶うかしら…
 さぁ、お誕生日会の準備をしましょうね!
 もうすぐ皆が来るわよ」


「ねえ、ママ・・・
 パパは、ボクのお誕生日覚えてるかな?」


「大丈夫。ちゃんと覚えてるわよ。
 遠くにいても、きっとレオの事、お祝いしてくれてるわ」


「よかった!
 ・・・ボク・・・ 早く、パパにあいたいな 」


「レオ・・・」



ふと見せるレオの寂しげな表情は
マミヤにとって一番辛いことだった。
そんな時・・・
あの二人が現れた。



「レオ!!誕生日おめでとう!!」


「リン!バット兄ちゃん!」


レオの笑顔を見てホッとするマミヤ。
二人は、レオを弟のように可愛がってくれている。
寂しがりやのレオを励ましてくれるのは
いつもこの二人だ。


「マミヤさん、
 最近レオのヤツ、ちょっと寂しそうだったから
 今日は、俺たちが盛り上げて元気にしてやるよ!」


「バット、いつもありがとう・・・」


幾度の闘いを見て育った少年は、
あの頃に比べ、ずいぶんと大人になり、逞しくなった。
今では、マミヤとレオ、そしてリンの頼れる存在だ。


「バット兄ちゃんは、パパを知ってるの?」


「もちろんさ!お前の父ちゃん、レイは
 強いしカッコいいんだぜ!!
 お前の母ちゃんや俺たちを守る為にいつも戦ってたんだ」


「パパは、正義の味方なの?」


「そうさ!だから、困ってる人達を助ける為に
 戦ってるんだ」


「パパはすごいんだね。 早く会いたいなー」


「レオが、いい子にしてたらきっと会えるさ!
 きっとな・・・」


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遊び疲れて眠るレオ。
マミヤにとって、レオの寝顔は
何よりも癒される。



「・・・パパ・・・」



夢をみているのだろうか。




その時・・・


ドアをノックする音。


「こんな時間に・・・誰・・・?

 



ドアを開けた 
その瞬間...



「・・・!!」



時間が止まった。



風に靡く蒼色の髪、紅く輝く瞳・・・
夢の中でさえ会いに来てはくれなかった
最愛のひと・・・
その姿が 目の前にあった。


「レ、レイ・・・・!!!」


驚きのあまり言葉にならない。


「マミヤ・・・会いたかった・・・」


レイはマミヤを優しく抱きしめた。


「・・・レイ・・・こ、これは夢・・・・?」


「マミヤ・・・
 お前達の願いは 俺の願いでもあった・・・
 それだけだ・・・



「レイ・・・」



二人に言葉などいらなかった。
今、こうして再会できた真実さえあれば。
もう一度抱き合う二人。
そしてお互いの気持ちを何度も確かめ合った。



「レイ・・・あなたの事は一日たりとも
 忘れたことはなかったわ・・・。
 私を一人残して 勝手に逝ってしまって・・・
 ホントに酷い人・・・」
 



「マミヤ・・・・・
 寂しい思いをさせてしまったな・・・」
 


「いいの・・・ 
だってあなたは・・・
 大切な宝物を残してくれたんだもの。
 ありがとう・・・。

 さあ、レオに会ってあげて。
 あの子、あなたが帰ってくると信じて
 ずっと待っていたのよ。」


マミヤは短冊に描かれた幼い息子の想いを
レイの前に差し出した。


「俺は、父親として
 何もしてやれなかったのに・・・」


すやすやと眠るわが子の髪を
そっと撫でる。


「・・・パ、パ・・・」


気配を感じ
レオが目を覚ました。


「あ・・・・
 パパ!!パパだよね!夢の中とおんなじだ。
 お帰り!パパ!!」



目の前に突然現れた父親の姿に
戸惑うことなく抱きつくレオ。
レイはその小さな手を握り締めると
初めて我が子のぬくもりを感じていた。
小さな鼓動が胸に伝わってくる。

愛おしい・・・

レイは、喜びを感じていた。


レオは今まで胸に抱いていた
父親への思いを夢中で話し始めた。
その話を優しい眼差しで聞くレイ。
マミヤはその光景を笑顔で見守りながら、
家族三人でいられる この僅かな時間を心に刻みつけていた。



「ねえ、パパ、ずっとここにいるんでしょ?」

レイがここに来た目的はもうひとつあった。
それは、わが子に真実を伝える事。
まだ幼いわが子に全てを伝えるのは酷な事と分かっている。
だが、それを伝えられず苦しむマミヤを見るのも辛かった。


「レオ・・・
 お前は、強くなりたいか?」


「うん!パパみたいに強くなりたい」


「そうか・・・ならば
 これから話す事を、しっかりと聞いてくれ」


「うん」



「俺は、ずっとここにはいられないんだ。」


「どうして?せっかく会えたのに。
 ずっとここにいてよ」


「レオ・・・
 俺は…お前が生まれる前に死んだんだ。」




幼い子供に、この言葉の持つ意味がわかるのだろうか。
俺の子だ。きっと理解してくれるはず。
真っ直ぐな目でレオを見つめる。




「パパ・・・、
 死んじゃったって…お星様になったの?
 ボク、よくわかんないよ。
 だって、ここにいるじゃない・・・」


レオの瞳から大粒の涙が溢れ出す。


「いやだよ!!
 死んじゃったなんていやだよ!
 だって、そしたら、もう会えないもん!」


泣きじゃくるレオ。
耐え切れずマミヤがレオを抱きしめる。


「レオ、パパはね、
 ママや皆の為に命を懸けて戦ったの。
 そして、お星様になったの。
 だから・・・わかって・・・」


「ママの嘘つき!
 パパが死んじゃったなんて
 ボク信じないよ」


「レオ・・・ごめんな・・・
 でも、本当の事なんだ。
 お前は強くなりたいんだろう?
 ならば、ちゃんと話を聞いてくれ」



大粒の涙を流しながらも
レイを見つめ 頷くレオ。



「レオ・・・
 俺は死んでしまったから
 ずっとここにはいられない。
 だから、俺の変わりにママを守ってほしいんだ。」
 


「ママを…?ボクが守るの?」



「そうだ。お前は、男の子だ。
 だから、お前の一番大切なもの・・・
 ママを守ってほしい。
 俺は、ずっと、お前の心の中にいるから・・・」



「心・・・?」



「そう、" ここ " にな・・・」



レイはレオの胸にそっと手を当てた。



「パパの手、あったかい・・・
 わかった・・・ !
 ボク約束するよ。ママをずっと守る!
 だから、パパも約束して
 ボクの、" ここ "  にずっといてくれるって…」



「ああ、もちろんさ! 男同士の約束だ。」



「じゃあ、指きりね!」



小さな指をレイの小指にからませるレオ。
レイの瞳から、光るものがこぼれ落ちた。






****************************************************


「マミヤ・・・もうすぐ夜が明ける。
 そろそろ行かねばならん・・・」



「レイ・・・ ありがとう。」



再び抱き合う二人。
このぬくもりを一生忘れぬよう
長く、長く・・・。



「パパ、ボク・・・・、
 パパとの約束、絶対に守るから!
 だからずっと ボクの " ここ " にいてね! 」




「レオ・・・」




レイはレオを強く抱きしめると心の中で呟いた。
わが子よ、強く逞しく生きてくれ。
そして、俺の分まで、母をマミヤを守ってくれ。
俺は、ずっとお前達を見守っているから。
ずっと・・・。




****************************************************


「ねえ、ママ、
 パパは死んでなんかいないんだよ。
 だって、ボクの " ここ " にずっといるんだもん。」



「そうね・・・
 レオとママが忘れないでいるかぎり
 パパは、ずっと生きていられる・・・
 私達の心の中で・・・」
 







 星の彼方にいる最愛のひとへ
 一年に一度だけの願い事・・・
 きっと、また逢えると信じて。

                

     

                星の彼方
                −END−

                         

               

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★あとがき★

七夕妄想の一つです。
今回も駄文ですみません。
前に書いたお話と似ちゃいましたが
あの世でレイが、自分に息子の存在を知ったら
きっと会いに来るのでは?と思いまして。
−お互いの想いが繋がれば 願い事はきっと叶う−
やはり二人の愛の話は終わりそうもありません。


 



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