カサンドラへ




〜 ケン 〜

崖の一件から

二人の距離が縮んだかと思われた

彼女の自分を見つめる視線もやや少なくなり

心の中で親友に祝福を送っていたのだが

『何故だ…』

人の事を女心が分かって無いと言うが

お前こそ同類だ。他所じゃ知らんが

本気の女に不器用というか…

情けない――

自分はその分円満だったからこういう事はよくわからん

さすがにトキにも聞けなかったしな…


顔は多少似ていても性質が全く違う彼女

それが好ましいと思うが…

顔に大きな手形をくっきりと


ひりひり

ひりひり


させていて

二枚目が台無しだな色男

呆れた顔で眺めていると

じろりと睨んでくる

俺のせいではないだろう

自業自得だ

とばっちりもいいところだ

事の始まりはいつもの事

カサンドラに行く先で

一つの小さな村での騒動を

やはり見てみぬふりが出来なくて

ついでに二人の自分ならこうするという

期待に満ちた視線も少々痛かった…

馬鹿共相手の立ち回り


その時、彼女の前に出てきた

敵をいつもの武器で倒そうとしたとき


目の前のこいつが出てきてかっさらった

普通の女なら助けてくれたと感謝するだろうが…

いかんせん彼女の戦士としてのプライドを

いたく傷つけたらしい

後を引かない性格の彼女が珍しく

こいつに食ってかかって

死屍累々の周りの惨状も気にせず

(よく見ると凄い光景なんだが…)

ついでに村の人間に引かれながら

(ドン引きだったな)

喧々囂々と言い争っていた

呆気に取られながらもあまりの仲の良さに

苦笑していたのだが

その時こいつが言った言葉に彼女が


ぶぁちぃぃぃぃぃんん!!


手を出して今このありさまだ…

気持ちは分からんでもないが

もう少し彼女の性格を把握しろ

あれは怒るぞ、確かに力の差は大きいが

彼女は彼女なりに必死に身に付けてきたものを

否定するような発言はよくないだろう

この時代は特にそうだ

『…はぁ』



…早い所仲直りしてくれこの状況は耐えられん


自惚れではないつもりだが…

下手に自分が動いて

せっかく近付いた二人の距離がまたふりだしになるのも遠慮したい

自分はあのペンダントの事と

できるだけ二人きりにさせようと単独行動するだけで精一杯だ

(すまんな)




正直言ってあの顔で見つめられるのは苦手だ

重ねているつもりは毛の先ほどもないが

何か見張られている気にもなってくる



『…はぁ』

何度目かになるため息を聞きながら

うんざりし

自分も空を仰ぎ見る



この時代に珍しく晴天の空の下

男二人が並んで


どんより

どよどよ


曇った空気で歩きつつ


少し離れた先の道

瓦礫と砂利が盛大に


ざかざか

ざかざか


鳴り響き

怒り足で歩いてる

彼女の後をついていく…







はあぁぁぁ…




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