絆
これが最後の夜になるのだろうか…
長い道のりを経てようやく辿り着いたやすらぎの場所。
命を掛けて守りたい…
そう思える存在が 今目の前にいる。
いつからだろう
このごくあたりまえの日常が 幸せと思えるようになったのは…
だが… それも絶ち切らねばならぬ時がきたのか。
「マミヤ・・・」
レイの呼びかけに思わず背を向けるマミヤ。
彼の言わんとしていることはわかっている。
ただ、レイの口からその言葉を聞くのが怖かった。
せめて最後の夜だけは・・・
「レイ・・・
お願い・・・何も言わないで・・・」
― 今夜は… あなたの妻でいさせて… ―
月夜に照らされた二つの影…
やがて一つになり
二人はもう二度と戻らないこの瞬間を
互いの心に深く焼き付けた。
*** 翌朝 ***
「マミヤ・・・
これは、南斗と北斗の最後の闘い。
生きて帰れる保証はない。
だから……
おれの事は忘れてほしい。
お前は新しい伴侶を見つけて幸せになれ…
お前が幸せでいてくれれば おれは何の未練もない… 」
「レイ… これを…
コウの形見のペンダント…
きっとあなたを守ってくれる… 」
震える手でレイの首に懸けるマミヤ
「マミヤ…
ありがとう…
しあわせに暮らせ……」
振り返ることなく 闘いの旅に出たレイ。
マミヤはその後ろ姿を涙で見送る事しかできなかった…。
― 必ず… 生きて帰ってきて… ―
*** 数年後 ***
闘いを終えたレイは、帰る場所も見つからないまま荒野を彷徨っていた。
そんな時一人の少年と出会う。
「アンタ、南斗の人だろ?
すげぇよな!あのラオウを倒しちまったんだから!!
ところで、これからどこへ行くんだ?」
「行くあてなどない・・・」
「そっか・・・
実はおれも、あの闘いで家がなくなっちまってさ
残ったのがこの車だけ。
まぁ車が残っただけでもラッキーだったけどよ。
でもアンタ、待ってる人とかいないのか?」
「・・・・・・」
「もしかして、死んじゃったとか?」
「いや・・・
おれは…この闘いに出る前、アイツに言った。
生きて帰れるかわからない自分の事は忘れて
新しい伴侶を見つけるようにと…
今はきっと他の男と幸せに暮らしているだろう…」
「まぁ、長い闘いだったもんな
でもさ、もしかしたら、アンタの事待ってるかもしれないよ」
「フッ・・・そんな事はない…」
「なんでわかるんだよ!
ホントは、奥さんが他の男と暮らしてんのを見るのが怖いんじゃないの?」
「おれは・・・
アイツが幸せでいてくれれば それだけでいい…」
「じゃあ、今すぐ確かめに行こうぜ!
オレはバット! アンタは?」
「レイだ」
「よし!レイ! オレのバギーで奥さんのいる村までひとっ飛びだ!」
かつて自分の住んでいた村に辿り着いたレイ。
目の前に映る風景は、マミヤと幸せに暮らしたあの日のまま…
「へぇ~ 花も緑もあっていいとこじゃんか~
さぁて、レイの家はどこなんだい?
――ってか、いつまで車に乗ってんだよ! 早く降りろよ!」
「あ、ああ・・・」
「レイ、やっぱ怖いんだ~」
「・・・靴の金具が外れただけだ」
「ククク・・・ しょうがねぇなぁ~
オレが先に見てきてやるよ」
レイの家へと向かうバット。
もし新しい伴侶と暮らしているのなら、そこにマミヤの姿はないはずだ。
「他人事とはいえ、やっぱドキドキすんな~
お!見えてきた。あそこだな・・・」
その時、突然後ろから肩を叩かれ、固まるバット。
「ヤベッ!!」
「お兄ちゃん、何やってるの?」
「な!なんだ!ガキかよ!驚かせやがってっ!
あのな、お兄ちゃん、今忙しいの。あっちへ行ってろ」
「ふーん」
「ん?まてよ・・・
あのガキ、どっかで見た事あるような・・・
ま、気のせいか・・・
それにしても、レイの奥さんってどんな人なんだろなぁ~
すっげぇナイスバディの美人だったりすんのか。
だとしたら勿体ねぇよなぁ~
あれ???
あいつ、さっきのガキじゃないか。
レイの家に入るのか・・・
おお!誰か出てきたぞ~
すっげー美人だけど、レイの奥さんなのか?
でもレイ、子供いるなんて言ってなかったしな・・・
あ・・・
新しい旦那と子供の三人で暮らしてんのか・・・
なんかショックだなぁ・・・ レイになんて言おう・・・」
「バット・・・」
「あ!!! レ、レイ!!!
なんでここにいるんだよ!
オレが先に見てくるって言ったじゃんか!(困った…なんて慰めよう)
まぁさ、レイはイケメンだからさ、新しい奥さんすぐに見つかるって。
でも、酷ぇ話だよなー
元旦那と暮らしてた家に新しい旦那と住んでるなんてよ~」
「バット・・・
すまんが、これをあの女に渡してくれないか・・・」
コウの形見のペンダントを手渡すレイ。
「あぁ・・・わかった・・・」
その時・・・
「あー!さっきのお兄ちゃんだ!!」
バットを見つけた少年がこちらへ走ってくる。
「ヤベ!気付かれちまった!!」
「お兄ちゃん、なんでボクん家覗いてんの?」
「覗いてなんかないさ!」
「もしかして、ママのファン?」
「はぁ~?(確かに美人だけどさ~)
―やっぱ、このガキどっかで見た顔だよな―」
「ママはダメだよ!
ボクが産まれる前から、ずーっとパパの事待ってるんだから!」
「産まれる前から?」
「うん! だからボク…パパに会った事がないんだ。
パパ… 早く帰って来ないかな……」
「ん??? オマエのパパって・・・・・?」
「レオ! お友達なの?
だったら、家に連れていらっしゃい」
「このお兄ちゃん、ママのファンみたいだよ!
だって、ずーっとぼくんち見てたから」
「お、おい!何言ってんだよ!
おれは、ただこれをあんたに渡すように頼まれてさ・・・」
「こ、これは・・・
あの人は・・・レイは・・・」
「マ、マミヤ・・・!」
「レイ!!!」
その瞬間、マミヤの瞳からハラハラと涙があふれ出す…
「おかえりなさい・・・レイ・・・」
「マミヤ、待っていてくれたのか・・・」
黙って頷くマミヤ。
語りきれない愛の言葉を胸に秘め
マミヤをきつく抱きしめるレイ。
長い歳月も 二人を引き離すことはできなかった…。
「おおっと!子供は見ちゃダメだ」
レオの目を慌てて隠すバット
「マミヤ・・・
待たせてすまなかった・・・
つらくはなかったか・・・?」
「私… あなたが必ず生きて帰ってくると信じてたから…
それに、お腹にあなたの子がいるとわかってから
この子に会える日が待ち遠しくて…
ふふ… 見ての通り、あなたにそっくりな男の子。
あなたに言われた通り、新しい伴侶と暮らしてたわ。
まだ小さくて頼りないけどね・・・ 」
「おれの息子・・・
フッ・・・新しい伴侶か・・・」
「レオ・・・ パパよ」
「ほら!行けよ! ずっと会いたかったんだろ」
「パ・・・パ・・・?」
「レイ、あなたの子よ。 抱きしめてあげて」
恐る恐る我が子を抱きしめるレイ
「レオ・・・
寂しい思いをさせてごめんな・・・」
「ボク・・・寂しくなんてなかったよ。
ママがいつもそばにいて、パパの話をしてくれたから…
ボクが思ってた通り、優しくてカッコイイパパ!
おかえりなさい!!」
「ただいま・・・レオ・・・」
その時、レオが耳元で小さく囁いた
「ママは丈夫だよ・・・
ぼくがずっとそばにいたから・・・」
「レオ・・・ ありがとうな
これからは、家族三人ずっと一緒だ」
「うん!!」
「家族かぁ・・・ 泣かせやがって!
さてと、邪魔者は退散するとするか・・・
レイ!
しあわせにな !! 」
*** おまけ(その後のバット) ***
「やっぱ、家族っていいよなぁ・・・
さぁて、家もなくなっちまった事だし
久々にトヨばあさんの所にでも行ってみるか・・・
あれ????」
「すみませーん! 乗せてもらってもいいですか?」
「リ、リン!!
おまえ、ケンのところへ行ったんじゃないのか?」
「やっぱり、バットと一緒の方が面白いから帰って来ちゃった!」
「面白いって… なんだよそれ!
しかし、なんでここがわかったんだ?」
「ナ・イ・シ・ョ・・・」
「あ! もしかして・・・?」
****************************************************************
最後まで読んで下さって有難うございました。
毎度のことながら痛い妄想ですみません!
以前ブログに書いた 映画『幸福の黄色いハンカチ』のパロディなんですが
この映画、30年以上前の作品なので、ご存知ない方もいらっしゃいますよね(汗)
映画の方は、刑期を終えた夫が、愛しながらも将来を思って別れた妻に
「まだ自分のことを待っていてくれるなら、黄色いハンカチを竿に上げておいてくれ」
という手紙を出した設定なんですが、レイとハンカチがどうしても結びつかなかったので
ハンカチは登場しない設定にしました(笑)
題名は、今年の漢字でもある『絆』
今年は震災があり、家族の大切さを再認識された方も多いと思います。
お話はそんな思いもこめて書いてみました。
(文章下手ゆえ、伝わらないかもしれませんが…)
心の中では自分を待っていてほしい…と思いながらも
愛する女の幸せだけを願い別れを告げるレイ。
そんなレイの気持ちが痛いほどわかっていたからこそ、黙って見送ったマミヤ。
言葉に出さなくてもお互いの心が繋がっていれば、きっともう一度会える…。
今日はクリスマス・イヴ
家族、友人、恋人と… 素敵な夜をお過ごし下さい・・・☆
I wish you a Merry Christmas!
BACK