果てしなき荒野へ




 果てしなく続くこの荒野を、あとどれくらい歩き続ければ、
この戦いの旅は、終わりを告げるのか
今は、飢えた狼のように、荒野を彷徨う自分がいた。





「レイ・・・お前は変わってしまったな・・・」


共に南斗聖拳を学んだ強敵(とも)の言葉が頭を過る。


「お前の拳は華麗で美しい。
 後輩たちの誰もがお前に憧れていた。俺もその一人。
 南斗水鳥拳の伝承者としてお前が選ばれた時も、
 お前に敗れたのなら俺に悔いはなかった。
 だが・・・今のお前の拳は憎しみしか見えん・・・。
 妹を奪われ、両親を殺された、お前の気持ちはよく解る。
 だが、そこまで自分を捨てることはない・・・」


「俺は、“あの男”を許す事はできない・・・
 妹を助け出し、“あの男”を殺すまで、
 俺は人間の心を捨ててでも戦うと決めた・・・」


「レイ、お前は言い出したら聞かない奴だからな・・・
 ならば、俺も共に戦おう・・・」


「いや・・・これは俺自身の問題だ。誰の手も借りるつもりはない」


「本当に一人で行くつもりか?」


「ああ・・・」


「リョウケンには伝えないのか・・・?それに部下達はどうする?」


「俺は一人で決着をつけると決めた。悪いが黙っていてくれ・・・」


「レイ・・・お前って奴は・・・」


「部下達の事・・・よろしく頼む」


「わかった・・・レイ・・・死ぬなよ・・・」


俺は、人間としての自分を捨て、闘いの荒野へと旅立った。



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ある噂を耳にし、辿り着いたその場所は
夜盗どもがうろつく、ひどく荒らされた街だった。
こいつらを始末すれば、また食料が手に入る・・・
いつしか そんな事しか考えなくなっていた。

一軒の店に入ると、一人の女が声を掛けて来た。
どうやらこの店は裏の目的があるらしい。
俺は拒むことなくその女と部屋に入った。
こうして愛のないまま、もう何人の女を抱いただろうか・・・。
人間としての自分を捨てたあの日から、
その目的を果す為、人を裏切り、人を殺し、今日まで生き延びてきた。
今の俺は罪悪感さえも失っていた。


「ねえ・・・あんた・・・本気で愛した女はいる?」


「フッ・・・くだらん事だ・・・」


「寂しい人・・・最初、あんたに声をかけた時、
 いい男ってのもあったけど、
 他の野盗どもとは違う何かを感じたんだよね・・・
 なんか・・・哀しい眼をしてた・・・」


「俺は・・・奴らと同じだ・・・だからお前を買った・・・」


「ふーん・・・まあいいけどさ・・・
 私には忘れられない男がたった一人いるよ・・・
 あいつらに殺されちゃったけどね・・・いい男だった・・・」


「あいつらに殺された・・・? どんな奴だ?名前は?」


「急にどうしたの?」


「とにかく何でもいい、教えてくれ!」


「あいつら・・・そこら中の村を襲って、若い女ばかりを連れ去った。
 その中でも上玉は別の場所へ連れて行かれた・・・」


「別の場所・・・?」


「奴らの“将”が居る城・・・
 その男は言ってた・・・自分はこの世で最も美しく、最も強い至上の男、
 自分を愛する資格を与えられるのは完璧に美しいものだけだと・・・」


「お前もその城に居たのか?」


「ええ・・・何度も逃げようとしたけど、無駄だった・・・
 でも・・・彼が、助けにきてくれたんだ・・・
 結局、逃げる途中に捕まって・・・
 彼は殺され、一緒に死ぬ事すら許されなかった私は、こうしてここに居る・・・
 完璧でなくなった者はこういう運命」


「すまない・・・辛い事を思い出させてしまったな・・・」


「いいのよ・・・
 あんた、見かけによらず優しいところ、あるんだね。
 なんか事情がありそうだけど・・・奴らと何か関係があるの?」


「女を探している・・・
 その城に、アイリと言う名の女はいなかったか?」


「アイリ・・・? あんたの恋人?」


「いや・・・妹だ・・・」


「そう・・・アイリという子は知らないけど・・・
 あんたの妹なら、上玉だろうし、あの城にいてもおかしくない・・・」


「その男・・・“将”の名は覚えているか?」


「忘れるわけがない・・・ ユダよ・・・」


「ユダ?!」


「知ってるの?」


「いや・・・・・・ 
 その城は何処にある?教えてくれ・・・」


「あんた、あそこへ行くつもり?・・・やめといた方がいいよ。
 あの男に捕らわれた女は、肩に烙印を押されて、
 二度と城から出る事はできない・・・
 それに、この周辺はユダの軍が支配してる。
 生きて城に辿り着けるかどうか・・・」


「それくらいの事は覚悟できている・・・」


「そう・・・わかったわ・・・あんたの無事を祈ってる・・・」



ユダ・・ ・俺と同じ南斗聖拳を極めた男・・・
その城に居る男が本当にユダなのか・・・?
そして、妹を連れ去った男も・・・
この目で確かめる為にも、俺はその城へと向かった。


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あの女の言った通り、この周辺はユダの軍の支配下にあった。
ゴミクズ同然の奴らを倒す事など、俺にとっては容易かった。 
そして、難無く辿り着いたその場所は、間違いなく南斗の城だった。
俺は、ユダの部下になりすまし城の中へと進入した。



「お前、見かけない顔だな?新入りか?」
 一人の男が話しかけてきた。


「まあ、そんなところだ。」


「そうか、お前は運がいい。今日は相当な上玉がみつかったらしいぜ。
 俺はまだ見ていないが、噂どおりの美人らしい」


「フッ・・・どんな女か楽しみだな・・・」


「ユダ様が、相当気に入って目をつけていた女らしいからな。
 これから、ゆっくり時間をかけて、
 ユダ様にふさわしい女に創り上げるのが俺達の仕事さ・・・。
 まあ、ついて来い」


男は城の奥へと向かった。


「ここは、特別な女しか入れない部屋だ」


「特別な女・・・?」


「俺達が調教した後、ユダ様が美しいと認めた女だけに“UD”の烙印が押される。
 その烙印を押された女は、この部屋に入り一生ユダ様に仕えるってわけ」


「ここにいる女は、皆、奴隷ってわけか・・・」


「言っておくが、この部屋・・・烙印を押された女には手を出すな。
 まあ、俺達は、女がこの部屋に入るまで、十分楽しませてもらえるからな。
 それに、ユダ様のオコボレもいただける。
 ここに来る女は皆上玉だから、 オコボレといってもいい女ばかりだぜ」


「フッ・・・女に不自由はしていないが 上玉となれば別だ」


「お前、なかなかの色男だからな・・・
 まあいい・・・一つ大事な事を言っておく。
 女の顔には絶対に傷をつけるな。
 ユダ様は完璧な美しか認めんからな。
 俺は、これから大事な“仕事”があるんで、女を物色してくる。
 お前も、適当な女を選んでおけよ。」



男はヘラヘラと笑いながら出て行った。
アイリはここに囚われているのか。
まさか、こんな下衆どもに・・・妹は・・・
俺は苛立を隠せなかった。


ある部屋の前で一人の女と目が合った。
女はこちらへ近づいてくる。


「あなた・・・見かけない顔ね・・・何か用?」


「ここに・・・アイリと言う女はいるか?」


その名前に一瞬驚いた顔をして女は答えた。


「知・・・知らないわ・・・あなた、その子がお気に入り?」


「いい女だと聞いていたんでな・・・ だが、お前もなかなかだ」


「あら、その子がお目当てだったなら、私に用はないんじゃない?
 ところで、あなた・・・ 見かけない顔だけど新入り?
 なんか・・・此処に居る男達とは違う目をしてる・・・」


「俺は、女を物色に来ただけだ・・・」


「そう・・・なら、私、今夜の仕事の相手、してあげてもいいわよ」


「仕事・・・?」


「私達を“調教”するのが、あなた達の役目でしょう?」


「フッ・・・そういう事か・・・」



この女、何か知っているに違いない・・・。

部屋に入り女の身体を引寄せると、
激しく唇を奪い、そのままベッドに押し倒した。
女は抵抗することなく俺を受け入れた。


「・・・顔に傷はつけないでね・・・」


「・・・わかっている・・・」



唇を貪り、耳から首筋、胸元へと舌を這わせる。
その白く美しい体には いくつもの痣が痛々しく残っていた。
その痣を労わるように愛撫すると
せつなく哀しい嬌声が耳元に木霊する。
今までどんな手荒な扱いを受けて来たのだろうか。
男を喜ばせる術を教えられたであろうその姿は
まるで操り人形のようだった。

今まで何人もの女を抱いてきたが、
これほど哀しく虚しい思いを感じたのは初めてだった。

もし妹がここに囚われているとしたら、
この女と、同じ運命を辿っているのか・・・
今の俺は、ここにいる下衆どもと何ら変わらない・・・
女を利用し、食い物にする卑劣な生き物・・・
失っていたはずの罪悪感が押し寄せてくる。



「あなた・・・やっぱり、ここの男じゃないわね・・・
 ここにいる男達は、皆死んだ目をしているわ・・・
 それに酒や女の匂いしかしない。
 でも、あなたの目には憎しみと哀しみが宿っている・・・
 それに血の匂いがした・・・
 ただ女を物色に来たとは思えないわ・・・」


「お前、なぜそんな事がわかる・・・?」


「ずっとこんな所に閉じ込められて、毎日同じ事の繰り返し・・・
 抱かれた男の目をみれば、その心の中くらい見えるわ・・・」


「・・・俺は・・・妹を探している・・・」


「アイリの事ね・・・私・・・彼女を知ってるわ・・・」


「本当か・・・?」


「あの子がここに来た時、美しいと評判だったけど、
 感情を無くしてしまっていて、まるで人形みたいだった・・・。
 ここに来る前にも、ひどい目にあっていたんじゃないかと思うわ」


「・・・誰に連れて来られた?」


「名前は知らない・・・ここの男達は“仮面の男”と言っていたわ。」


「“仮面の男”?・・・アイリは今、何処に居る?」


「わからない・・・
 でも・・ユダ様を訪ねてきた男が、アイリを気に入って、
 ある女を探し出す事が条件で、アイリを買ったと聞いたわ・・・」


「その女は誰だ・・・?アイリを買った男の名は?」


「アイリを買った男の名はわからないけど・・・
 女はユダ様が以前からずっと目をつけて探している女って聞いたわ。
 ただ、その女が見つかったかどうかは分からない・・・
 もしかしたら・・・
 アイリは、まだこの城の何処かにいるかも知れない・・・」



ユダが探していた女・・・?
そういえば、さっきの男、
今日は相当な上玉が見つかったと言っていた・・・
もしや、その女とアイリが・・・?



「ユダは何処にいる?」


「ユダ様は・・・いつも最上階の大広間に・・・
 あなた、何者か知らないけど・・・あの男は他の男達とは違うわ。
 私・・・目の前で何人もの男が簡単に殺されるのを見た・・・」


「ヤツのことは承知している・・・」


「・・・あなた・・・いったい何者なの?」


「俺は・・・ユダと同じ、南斗の男だ」


「南斗の?・・・同じ南斗の人間が何故・・・?」


「・・・それ以上は聞くな。」


厳しい口調に女は目を伏せ答えた。


「わかったわ・・・でも、油断しないで・・・
 近道があるから案内するわ・・」


女は薄暗い地下道へと入っていった。


「この先に、地下牢があるわ・・・
 もしかしたらアイリはそこに監禁されているかも・・・
 さあ早く行って!あなたの目的は、妹を助け出すことでしょう」


「すまない・・・お前を利用してしまった・・・」


「いいの・・・あなたの役に立てただけでもよかったわ。
 それに・・・此処に来て初めて人間らしい会話ができた・・・。
 最後に一つだけ教えて・・・私の名は、ライナ、あなたの名は?」


「レイだ・・・」


「レイ・・・妹さん、見つかるといいわね・・・」


人間らしい会話・・・あの女・・・ライナはそう言った。
俺にまだ人間の心が残っていたと言うのか・・・
人間としての自分はとうに捨てたはず・・・
今の俺の目的は妹を助け出し、“あの男”を殺すこと!
情に流されている時間はない。
俺は地下牢へと続く暗闇をひたすら走り続けた。

 




明日なき旅 ~果てしなき荒野へ~
    To be continued...     



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★あとがき★
餓狼時代のレイを妄想して書いてみました。
当時のレイはかなり荒んでいたと思うので、これくらいのことはしてたんじゃないかと…
今回、微エロのリクエストがあり、初めて挑戦してみたんですが
自分の文章力ではかなりムリがありました(汗) 不快に思われたらすみません!!!
(やっぱりお相手はマミヤさんでないと… )
このお話、一応まだ続きます・・・
                                              




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