薄暗い部屋の中に入ると、ベッドに横たわるレイの姿があった。
苦痛に耐えるその姿に、熱いものがこみ上げてくる。
彼を救ってあげたい・・・。


「誰だ・・・?」


気配に気付いたレイが起き上がる。


「レイ・・・」


レイの顔を見た途端、涙が溢れる。


「レイ、ごめんなさい・・・
 私、あなたに酷い事を言ってしまった・・・
 あなたが背負ってきた哀しみや苦しみは、
 私の心の傷なんかより もっと深いのに・・・」


「いいんだ、マミヤ・・・ 気にするな・・・」


優しく答えるレイ。


「私・・・ 傷つくのが怖くて・・・
 あなたの気持ちを受け入れる勇気がなかった・・・。
 でも・・・
 やっと気付いたの・・・
 自分の本当の気持ちに・・・」


マミヤの頬をつたう涙を、レイはそっと指で拭った。


「マミヤ・・・
 お前は俺の心に安らぎを与えてくれた・・・
 俺は、お前に出会えただけで幸せだ・・・
 こうしてそばにいてくれるだけで・・・」


マミヤは、確信した。
今、目の前にいるこの人を失いたくないと。


「レイ・・・
 私・・・ あなたを・・・
 あなたを  心から愛してる・・・」


一瞬驚くレイ。
優しい眼差しでマミヤを見つめる。


「マミヤ・・・俺は死んでゆく身・・・
 お前の愛など求めていない・・・
 俺は・・・
 お前の心の中で生きていられればそれでいい・・・」


「レイ・・・」


レイの胸に縋りつくマミヤ。
その胸には幾つもの傷跡があった・・・。
この傷のすべては私達の為・・・
マミヤはその傷に優しく手を触れた。


「レイ・・・ こんなに傷ついて・・・
 せめて・・・
 あなたの苦しみを少しでも和らげてあげられたら・・・」


頬をつたう涙がレイの傷跡に零れ落ちる。


「マミヤ・・・お前とこうしているだけで、
 この傷の痛みさえ忘れてしまう・・・
 だから・・・
 だからもう十分だ・・・俺のことはもういい・・・」


苦痛に耐えながら、レイは精一杯の笑顔で答えた。


「レイ・・・
 あの時、あなたはこう言ったわ・・・
 女は自分の幸せだけを考えていればいいと・・・。
 今、私にとっての幸せは
 あなたを・・・
 あなたを 愛する事・・・・・・」


涙ながらに訴えるマミヤに、レイは優しく言葉を返した。


「マミヤ・・・
 俺は・・・
 本当に幸せ者だな・・・」


死に行く運命にありながら、
自分と共にいられる事を幸福と答えるレイ。
たとえ、限られた時間であっても
一瞬でもいい・・・
レイを愛したい・・・
彼の生きていた証を 心に刻みたい・・・
マミヤに迷いはなかった。


「・・・レイ・・・
 愛してる・・・
 だから・・・ お願い・・・」


縋りついたまま離れようとしないマミヤ
レイはマミヤの髪を優しく撫でると、
涙に濡れた頬を大きな手で包み込んだ。


「マミヤ・・・ 
 愛してる・・・・・・」







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