Love Letter

~ あなたといた時間(とき)~



窓の外は雪
真っ白に染まった街並みを 
ぼんやりと眺めながら
曇りガラスを指でなぞってみる
気がつけば また同じ名前を書いていた
独りの夜がこんなに淋しい事
あなたがいなくなって初めて知った

今思えば 私にとってあなたは
当たり前の存在になっていたのかもしれない
振り向けばいつもそばにいて
私を笑わせたり 時には叱ってくれたり
あまりに近くにいたせいで
それが当たり前の事になっていた
だから、あなたのいない毎日が
こんなにも 淋しいなんて 
あの頃は気付きもしなかった
バカよね…
失って初めて
あなたが大切な存在であったことに
気が付くなんて



哀しみに襲われた夜
いつも私を励ましてくれたのは
夢の中に現れる 一人の見知らぬ少年


― 泣かないで…僕がそばにいるから… ―


その少年の言葉は とてもあたたかくて
私の心を いつも癒してくれた


― 淋しい時は 手紙を書くといいよ 
  その気持ちは 大切な人にきっと届くから ―



淋しい夜は
あなたに手紙を書いた
永遠に届くことはないけれど
夢の中の少年が言っていたように
この気持ちは いつかきっと
あなたに届くと信じて…


明日はクリスマスイヴ
もしあなたが生きていたら
どんな贈り物をくれるのかしら
私は あなたがそばにいてくれたら
それだけで十分
輝く宝石も 素敵な洋服も
あなたの存在には敵わない


あなたと二人だけで過ごした時間は
想い出というには あまりにも短かすぎて…
せめて 夢の中でもいい
もう一度 あなたに逢えたなら…
でも あなたは
夢の中でさえ 一度も逢いに来てはくれない


もしも 願いが叶うならば
私は…
私は あなたとの時間がほしい
たとえ僅かな時間でもいい
もう一度 
あなたと幸せな時間を過ごすことができたなら…

レイ…
あなたに 逢いたい
もう一度だけ…




************************************************




翌朝・・・
ドアを叩く音で目が覚めた


「こんな時間に 誰…?」


ドアを開けると そこには一人の少年が立っていた


「これ・・・」


その少年は 一通の手紙を差し出した


「ありがとう・・・」


それは差出人のない手紙だった


「信じていれば いつか願いは届くよ」


そう言い残し 
少年は 笑顔で手を振り 去っていった


「見かけない子ね
 でも… どこか懐かしい…」



渡された手紙を開くと
そこには 今夜、ある場所へ来るようにと書かれていた
その場所は マミヤにとって忘れられない場所でもあった






その晩 
マミヤは戸惑いながらも
手紙の指示通りの場所へと出掛けた




窓から差し込む月の明かりが
水面に反射してキラキラと輝く

ー あんなカタチの出会いだったけれど
  私にとっては大切な想い出・・・ ー

ここは マミヤにとって
忘れられない想い出の場所だった





ふと 月の明かりが
人影を照らし出した



「誰・・・?」



あの時と同じ場所に 一人の影
そのシルエットは 見覚えのある懐かしい姿



「マミヤ・・・」



「え?」



「遅刻だぞ」



懐かしいその声に 心が震えた



「レ、レイ・・・?」



「待ちくたびれて 凍えそうだ」



「レイ…

 待ちくたびれたのは私の方…

 でも どうして…?」



「お前との約束…

 一つ果たせなかったのが気がかりでな」



「約束?」



「マミヤ・・・目を閉じてごらん」



「え?」



レイはあるものを取り出すと マミヤの頭にそっとかけた



「さぁ・・・目を開けて」



「こ、これは・・・」



「約束していただろう?

 いつか 純白のケープをお前に贈ると」



「レイ… 覚えていたの…?」



「お前との約束 忘れるはずがないだろう」



「私、私・・・」



涙で声にならないマミヤ



「マミヤ…
 
 お前はいつから そんな泣き虫になったんだ?」



「レイ… あなたのせいよ…

 ずっと独りにしておいて

 突然 私の前に現れるなんて…」



「フッ… 

 そういうところ 昔と変わらんな…
 
 綺麗だよ… マミヤ…」



「レイ… 
 
 私…
 
 あなたに ずっと伝えたかった事があるの」



「わかっているよ・・・」



「えっ?」



「さぁ、二人だけで結婚式をあげよう

 お前を ”未婚の母” にするわけに いかないからな」



「レイ・・・どうしてその事を?」



「手紙に書いてあっただろう・・・?」



「あぁ・・・レイ・・・」



「もう泣くな・・・美人が台無しだぞ」



レイはマミヤの手をとると優しく口づけをした
そして涙に濡れたマミヤの唇にもう一度・・・
二人は お互いの気持ちを確かめ合い
永遠の愛を誓った





「マミヤ・・・
 おれはお前と 喜びを分かち合うことも
 悲しみを分け合うことも
 我が子を この手に抱くこともできない
 でも心は いつもお前のそばにいる
 だから、悲しんでばかりいないで
 新しい一歩を踏み出してほしい
 おれは いつでもお前の味方だから
 心の中で ずっとお前を支えているから…」
 

 
「ありがとう・・・レイ
 そうね・・・泣いてばかりいたら
 この子に笑われるわね

 でも・・・

 私は、あなたを忘れる事なんてできない
 だから、お願い 
 今日だけは ずっとそばにいて・・・」
 





マミヤを抱きしめるレイ
月の光が優しく二人を包んでいた









― マミヤ… 

   おれはいつでもお前のそばにいるよ…
  
   お前に出逢えて幸せだった… ありがとう… ―





************************************************



翌朝
マミヤが目を覚ますと 
そこにレイの姿はなかった



「やっぱり・・・ 夢だったのね・・・」





「あっ・・・!」



マミヤの視線の先には
純白のケープがあった



「あぁ・・・レイ・・・」



純白のケープを抱きしめるマミヤ
その瞳から大粒の涙が溢れた



「もう泣かないと決めたのに・・・

 ごめんね、レイ・・・

 今だけは、泣かせて・・・」









やがて 雪は止み
子供たちのはしゃぐ声が聞こえ始めた頃
マミヤの家にも 賑やかな子供たちがやってきた


「マミヤさーん!
 クリスマスパーティーが始まるよ!」


リンとバットだ


「アイリさんが ご馳走作って待ってるよ」


「今、行くわ」


アイリの部屋には 
リン、バット、村の子供たち手作りのクリスマスツリー
質素だけれど、とても温かいクリスマス
マミヤは 一人じゃないことの幸せを感じていた

ふとその時
暖炉の上に飾られた 一枚の写真に気付く


「アイリ、あの写真は?」


「あ、これ? 兄さんと私よ」


それは幼い兄妹の写真だった


「幼い頃の写真は 
 あの戦争でほとんど焼けてしまったけど
 たまたま この写真だけが残っていたの
 ずっとしまっていたけど
 今日はクリスマスだし
 きっと 兄さんも喜ぶだろうと思って」


写真を手に取るマミヤ


「!!!・・・これは・・・」



その写真には
マミヤの元へ手紙を届けに来た少年の姿…
それは紛れもない
夢の中でいつも自分を励ましてくれた
あの少年の姿でもあった



― そうだったのね… レイ
  あの少年は 幼い頃のあなたの姿
  あなたは 夢の中で
  いつも私を励ましてくれていた
  ありがとう… 本当にありがとう… ―



マミヤの頬を 一筋の涙がつたう



「義姉さん、どうかした?」


「ううん・・・なんでもないの」


「ごめんなさい…
 私、義姉さんの気持ちも考えずに…
 よかったら、この写真、義姉さんが持っていて」


「ありがとう、アイリ
 でもいいの…
 これは あなたとレイの大切な想い出だもの
 写真は あなたが持っていて
 私は、あの人と二人だけの想い出を大切にするから…」


写真の中の少年は くったくのない笑顔で
マミヤを優しく見守っていた




***********************************************



レイ・・・

哀しみから逃れられないでいた私を

何度も励ましてくれて ありがとう

心に届け合った手紙は

永遠に褪せることのない 

二人だけの大切な想い出

私は あなたを失った哀しみより

あなたと出逢えた幸せに感謝しながら

これからも 生きていきます


だから

ずっと 見守っていて

星の光が時を越えて 輝き続けるように・・・






I love you till the end ... 















  Love Letter
~あなたといた時間(とき)~
    END











******************* あとがき *******************

後まで読んで下さってありがとうございました。

原作で、レイがマミヤに「純白のケープを贈ろう」と語るシーンがありましたが
その約束は果たせたのか わからないままレイは帰らぬ人となってしまいました。
その後、ケープの行方が気になり、初めて書いたお話が「天国からの贈り物」
こちらのお話は、レイの部下がマミヤにケープを届ける設定でした。
今回は、レイがマミヤにクリスマスプレゼントを贈るとしたら…?と考え
純白のケープを届ける為 天国からマミヤに逢いに来る設定にしてみました。
お話と合わせて、イラストも描きましたので よかったら覗いてみて下さいね。



レイとマミヤ…
二人が一緒にいられたのはほんの僅かな時間…
それは、想い出をつくるにはあまりにも短かすぎました。
一人残されたマミヤにとって 
大切な人を失った哀しみは 消える事はないかもしれません。
でも 再び出逢い、二人だけの大切な時間を過ごしたことで 
マミヤが 新しい一歩を踏み出せるきっかけになったなら…
それは レイを忘れることではなく
新しい恋をみつけることでなくてもいいのです。
前を向かなければ 何も始まらないのだから…。

マミヤの幸せを心から願っていたレイ。
マミヤが生きる希望をみつけ、懸命に生きていく姿を
きっと喜んで見守っている事でしょう。
たとえそれがどんな選択であったとしても…。



今夜はクリスマス・イヴ
貴方にとって 素敵な夜になりますように…☆









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