夜の虹  ~ 最愛 ~





 
「レイ・・・ 
 こうしてもう何年経ったかしら・・・」



レイの想い出と共に独り静かに暮らすマミヤ。
一緒に暮らす事は叶わなかったけれど、
もし向かいの席に彼がいたら…
そんなことを思い描きながら、
その日の出来事を独り呟くことが
いつしか日課になっていた。



「レイ・・・
 私はこんなおばあちゃんになってしまったけど
 心の中のあなたは あの日のまま・・・
 あなたのところへ行くのも
 そう遠くないと思うけど
 こんなおばあちゃんでも
 私だと気づいてくれるかしら・・・。
 
 ふふ・・・
 でも、この姿なら 
 服を剥がされる心配もないわね・・・」



ふと窓辺に向かい 夜空を見上げる。
そこには、あの日消えたはずの蒼星が輝いていた。



「今日は月がとっても綺麗ね・・・
       あの小さな星も・・・」 



 ー蒼星が再び見えるようになって三日・・・
  あの星の意味を知った日は
  絶望しかなかったけれど
  今は不思議とほっとしている自分がいる。
  あなたが 私の心に住んでしまってから
  この日がくるのを
  ずっと待っていたのかもしれない・・・―



「レイ・・・
 もうすぐあなたに逢えるわ・・・
 
 長かった・・・
 本当に・・・・・・ 」





椅子に腰かけ、ぼんやりと窓の外を見つめながら
いつしか眠ってしまうマミヤ。
ふと暖かな気配を感じ目を覚ますと
窓から差し込む月の光が ぼんやりと人影を写し出した。
その光の先、誰も座る事のなかった向かいの椅子に
最愛の人の姿があった。



「レ・・・レイ!?」



まだ夢の続きを見ているのだろうか。
思わずその体に触れようと差し伸ばした自身の手に
悲しい現実を見たマミヤはその手を隠してしまう。
時の流れはあまりにも残酷だった。



「ご、ごめんなさい・・・・ 
 私の手・・・・ こんなになって・・・」



レイは痩せ細ったマミヤの手を引き寄せると
自身の大きな手で優しく包み込んだ。



「マミヤ・・・
 おれは あの日からずっとおまえを見守り
 おまえと共に歳を重ねてきた・・・
 おまえが年老いたのなら
 それはおれも同じ事・・・

 今、おれの目の前にいるおまえは
 あの日と変わらない美しい女のままだ。
 
 どれだけ時が流れても
 おれの気持ちは 変わらない・・・ 」



レイは、これまでマミヤが語りかけてきたことすべてを覚えていた。

両親を亡くした子供達を集め、アイリと二人で面倒をみていたこと
アイリもまた愛したひとを忘れられず マミヤと同じ道を選んだこと
バットとリンが結婚し、4人の子供達の親になったこと・・・

まるでずっと一緒に暮らしてきたかのように・・・



「レイ・・・ ありがとう・・・・」



レイの変わらぬ優しさとその懐かしいぬくもりに触れたマミヤ
その頬にハラハラと涙が零れ落ちる。
これが夢ならば どうかこのまま醒めないで・・・
心の中で叫び続けた。







「マミヤ・・・
 今夜はおまえに見せたいものがあってな・・・
 しばらく目を閉じていてくれないか」



戸惑いながらも目を閉じるマミヤ。
外はだいぶ冷え込んできているようだ。
少しでも暖をとれるようにと
レイはマミヤの肩にそっとショールをかけ
優しくその手をとり、外へとエスコートした。



「マミヤ・・・目を開けてごらん・・・」



おそるおそる目を開けるマミヤ
そこには、今まで見た事もない神秘的な光景が広がっていた。
満月の夜空に現れた七色の架け橋・・・幻想的な光を放つ夜の虹。



「はっ! あれは 虹?・・・
 なんて・・・ なんて美しい・・・」



その光景を目にした瞬間、マミヤの瞳に涙が溢れ出す。
その涙は 月の光に照らされキラキラと宝石のように輝き
何度もマミヤの頬をつたった・・・
愛おしいその姿にレイはマミヤ肩を優しく包み込んだ。



「クリスマスプレゼント、お気に召したかな?」



「レイ ありがとう・・・
 なんだか不思議ね・・・ 自然と涙が出てくるの・・・ 
 本当に キレイ・・・
 まさか、夜に虹を見る事ができるなんて・・・」

 

「あの虹は 満月の夜に 
 いくつかの条件を満たした時にだけ奇跡的に現れる
 月の光が写し出す神秘の現象・・・
 夜の虹
を見た者には 最高の祝福が訪れると言われている・・・
 
 マミヤ・・・奇跡を信じるかい?」



「ええ・・・もちろん!
 だって こんなに美しい光景を あなたと観ているのよ。
 それだけで 私にとっては奇跡・・・

 ふふ・・・ 
 それに あなたってまるで魔法使いみたい。
 突然 私の前に現れたと思ったら
 今度はこんな素敵なクリスマスプレゼントまで・・・」



「フッ・・・ 
 ならば 魔法使いからもう一つ・・・ 
 マミヤ、自分を見てごらん・・・」



レイはマミヤの手を取り、窓ガラスの前に立つと
曇ったガラスを手で拭った。
恐る恐る窓ガラスに近付き自身の姿を見るマミヤ。
そこに映っていたのは 若き日の自分の姿だった。




「え? わたし・・・?」



「夜の虹は奇跡を起こすと言われている。
 こうして二人がもう一度逢えたことも
 あの虹のおかげかもしれんな。
 
 さぁ、皆が待っている。 一緒に行こう!」



「皆が待ってるって・・・?
 どこへ行くの?
 ねぇ・・・レイ!!」



レイはマミヤの肩を抱き、夜の虹を指さした。



ーあの虹が消えてしまう前に・・・ ―



レイはマミヤの手を握り虹に向かって走り出した。
その大きな手はとてもあたたかく優しく、あの頃のままだった。
マミヤはその手を強く握り返し、
今起きている出来事に戸惑いながらも喜びを感じていた。
たとえそれが夢であったとしても 
マミヤにとっては 一生分の幸せだった・・・。



― お願い・・・レイ・・・この手を離さないでいて ―










レイに導かれ辿りついた場所は丘の上の小さな教会だった。
美しい光のアーチを描いた 夜の虹は 
真っ白な教会を包み込み 幻想的な光を放っている。
一面に広がるその絶景に 二人は言葉を失い 静寂を見守る・・・


マミヤは繋いだままのレイの手を 
もう一度 ぎゅっと握り返した。



「レイ・・・ 
 あの星が・・・ 蒼星が見えない・・・ 
 これは・・・現実なの・・・?」



レイは悪戯な笑みを浮かべると
その長い指先でマミヤの頬をキュッと抓った。



「いっ・・・痛い・・・!」 



頬の痛みも レイの手のぬくもりも 今、確かに感じている。



「そういうことだ」 



マミヤの頬を両手で包み込み 優しく微笑むレイ。



「・・・レイ・・・ あなたは?」



思わず口にしてしまった言葉に マミヤは後悔した。
その答えを聞くのが 怖くてたまらない。
最愛の人を もう失いたくない・・・
心の中で何度も何度も叫び続け
視線の先にあるはずのレイの姿が 溢れる涙で霞んでいく。

レイはマミヤの頬に手を当てたまま
真っ直ぐな目でマミヤを見つめると
静かにその目を閉じ ゆっくりと頷いた。



「大丈夫だ・・・」



マミヤの頭を優しく撫で 微笑むレイ。
その瞬間、マミヤの瞳から安堵の涙が零れ落ちる。
レイはその涙を優しく拭うと、もう一度マミヤの頬を抓った。



「フッ・・・
 おまえはホントに泣き虫だな・・・」



「だって・・・  あなたが・・・
 あなたが またいなくなってしまったら・・・
 私・・・怖くて・・・」



「マミヤ・・・
 長い間 独りにさせて・・・ 
 淋しい思いをさせてすまなかった・・・
 おれはもう何処へもいかない。
 ずっとおまえの傍にいる・・・」



レイは約束のベールをマミヤにそっとかけると
優しく額にキスをした。
恥ずかしそうに頬を赤らめるマミヤ・・・
潤んだ瞳でレイを見つめ、
あの日、言葉にできなかった想いをレイに伝えた。



「レイ・・・
 私・・・ずっと後悔していたの・・・
 あなたに 自分の想いを伝えられなかったことを・・・
 いつもそばにいて 小さな灯のように 
 私をそっと照らし続けてくれていたのは 
 レイ・・・ あなただった。
 あなたは私に 愛することの喜びを教えてくれた たった一人のひと・・・ 
 愛しています・・・心から・・・ 」



「マミヤ・・・ わかっていたよ・・・
 あの日、おまえが流した涙に
 死を覚悟していたはずのおれの心が揺れた。
 傍にいておまえを守ってやれないことの未練・・・
 もう二度とおまえの涙を拭うことも 
 その手に触れることも許されない己の運命を恨んだ。
 
 せめて・・・ おまえの心の中で生きてゆければと・・・
 
 だが こうして再びおまえと・・・
 この奇跡に おれは 感謝している・・・」
 
 

「レイ・・・
 私は今、女として本当に幸せよ・・・
 長い間 想い続けた 最愛の人が目の前にいるんですもの。
 
 あなたにもう一度めぐり逢わせてくれたこの奇跡に
 私も 心から感謝してる・・・」



「マミヤ・・・
 もう 心の中の想い出と暮らす必要はない・・・
 明日からは 二人でたくさんの想い出を描いていこう

 愛している・・・これからもずっと・・・」



きつく抱きしめ合い 唇を重ねる二人
あの日 叶わなかった分まで 
互いのぬくもりを 愛を 確かめ 永遠を誓う
もう二度と離れないように・・・











夜の虹・・・・・・

それは この世で最高の祝福の証。

二つの蒼星を消し去った 七色の光のアーチは

二人の未来を見守るように 夜空を照らし続けていた。












――奇跡は それを信じる人にだけに訪れる――


      
夜の虹 ~最愛~

         END












 

 最後まで読んで下さって有難うございました。いつも似たような話ですみません!
 以前ブログで 「最愛」のPV に触発されて書いた妄想話の改訂版です。
 ラストシーンがとても美しくせつなくて、思わずレイマミ変換してしまいました。
 
 レイ亡き後も、レイを想い独り淋しく暮らすマミヤさん・・・
 歳を重ねたマミヤさんの姿を想像したらせつなくて・・・
 もう一度、レイに逢わせてあげたい・・・ 今度こそ二人を幸せにしてあげたい・・・
 そんな思いを込めて書きました。
 ラストは二人が一番輝いていた時の姿になっている設定です! (「タイタニック」のラストシーン風)
 
 タイトル「夜の虹」はサイト名にちなんでずいぶん前から妄想していたものなんですが
 先日、たまたま「夜の虹」が実在するものだと知りビックリ!
 (雨の多いハワイのカウアイ島で運がよければ観ることができるそうです)
 元々は、余命僅かとなったマミヤの元へ レイが迎えに来る設定だったのですが
 この虹の奇跡を参考に、ちょっとファンタジーな展開に変更しちゃいました^^
 

 因みに今回のBGM@レイマミソングは、季節外れ&ベタですが杏里の「SUMMER CANDLES」です。
 "近すぎて見えない奇跡・・・" (最近歌詞がマミヤ→レイっぽいと気付いた)
 いつもせつない曲ばかりなので、たまにはこんな幸せソングもいいですね♪

 当初はサイト8周年を迎えるクリスマスイブにUPする予定でしたが、
 手直ししているうちに年が明けてしまいました^^;
 8年経ってもこんな痛い妄想ばかりの拙いサイトですが、
 これからもどうぞ宜しくお願い致します!!



     レイマミ愛は永遠!! 
  
      管理人 * まな *







        



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