砂音 〜 運命の女 〜





夢を見る

最初は白く何も無い

だが

はるか遠くへと目を凝らして見ると

小さな人影が見えてきた

初めは、はっきりとした形では確認できなかったが

何度か同じ夢を見るうちに

それは徐々に

大きくなってきた

後姿で顔の見えない

女だった―



ざくりざくり、と

血に塗れ、傷ついた姿で

一人灼熱の砂漠を渡っている

あまりに痛々しいその姿に

手を差し伸べようとしても



するり





突き抜けてしまう

触れれないその女は

何事も無かった様に

また

ざくり、ざくり

一人

歩いていく


”お前はどこへ行くつもりだ?”

問いかけは、届かず

女は、

振り向きもせず

ただ歩いていく


ざくり、ざくりと―


そんな事が何日も続き

ただの夢と割り切れず

逆にその夢を見ないようにとして寝不足になっていき

修行に身が入らなくなりそうになった



『それは予知夢かもな』

これではいけないと相談を持ち掛けたのが

シュウ―”年上の親友”

『予知夢?』

この、温厚で博識な年上の友人は

年配者という事をおくびにも出さず

自分より年下の者にも対等に接してくれる

ありがたい存在だった

だがー

『ちょっと待ってくれ予知夢とは…』

あまりにもとっぴな話にまじまじと親友を見る

『ああ、いずれ起こりえる事つまり―未来だな』

未来?あれが?

『その夢に出て来る女はいずれお前と出会う運命なんだろう』

あの女が俺と?

そうなのだろうか…

『レイ、お前は義の星の男、人の為に尽くす事を定められた者
 いつかその女に出会い夢の様な事にあっていたら
 全力で護ってやるといい』

『シュウ…』

『ふふ…だが珍しい事もあるものだな』

『何がだ?』

『いつもは、家族以外で、しかも顔も知らない女の話を
お前から聞かされるとはな』

『な!?』

『案外その夢に出て来る女とはお前の未来の伴侶かもな』

『か、からかうな!シュウ!!』

『からかってはいやしない、現に俺に話を持ちかける程、
 相当気にしていたように見えるぞ』

『そんな事は無い!!』

『そうか?案外悪くないものだぞ〜
 愛する者と共にいるということは♪』

この…自分が既婚者だからって、こちらにそんな話を振るとは… 

(しかも子供もいるというのに今でも新婚時代と変わらないと言う、
 話が長くなりそうだ…)

何がどうしてそんな話になったのか
何時の間にかのろけ話に花が咲いていた

それに頭を抱えながら

『勘弁してくれシュウ…第一俺にはまだ継承者としての…』

『ああ悪かった、試験がもうじきだったな…』

(本当に悪いと思ってんのか?この親父は…)

そう、今はそちらに集中しなければ



シュウに相談して気持ちが楽になったのか(さすが年長者)

それからは、その夢を見る回数も減っていた

たまに見るその後姿に

いつか…俺が必ずそこから助け出してやると勝手に誓いを立て

修行にもより一層身を入れ

俺は無事、南斗水鳥拳継承者としての資格を手に入れた


だが―


どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん!!!!!!!!

19XX


核戦争が起き

人々の生活が一変し

暴力がこの世を支配する世界となった

俺の村も例外ではなく

両親は殺され、妹は連れ去られた

俺は、地に堕ちた

父がいまわの際に言い残した

”胸に七つの傷の男”

殺してやる!

そいつを探し出し八つ裂きにしてやる!!

六聖拳、義の星など知ったことか!

俺の大切な者達を奪ったもの全てに復讐してやる!


ごおおおおおおおお……


そうして俺は当ての無い放浪の旅に出た

旅の途中

裏切りや略奪は当たり前となり

この手で幾人殺めたかもう解らなくなっていた…

いつしか俺の心は人の心を失っていた―




そんな時だった

牙一族の誘いに乗り

とある村に潜入した

『ほう…なかなか良い村だ…』

確かにこの村は今までのどの村と違い活気があった

だが、それももうじき血の雨が降る

残酷な思考に唇の端が歪む



周りを見回した後ふと目に付いた人影

一人は、男

もう一人は女、


男の方はもう一人の用心棒だろうか

成る程、只者ではなさそうだ


女は…



ふと



ざくり、ざくり…


微かに



あの砂音が聞こえ始めた…



まさか



かつて親友だった男の言葉が蘇える


―『その夢に出て来る女はいずれお前と出会う運命なんだろう』―


あの夢は

全てを失い闇に堕ちてから全く見なくなっていた

背中だけだった

顔の見えない女

ひとり砂漠をさ迷い、

いつか俺が救うと誓った

そして

哀しみに曇っているならばその顔を笑顔にしてみたいとー




何故今更…


お前がそうなのか?


お前が



俺の――




『       』 


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