To.Mamiya...   From.Rei





野宿


ごうごう、ごうごうと風が鳴り響く

カサンドラに行く行程で直面した嵐

先へ進もうとすればするほどますます強くなる

日が暮れ周りが暗い闇に包まれれば

これ以上の前進は危険と判断し

風を避けられる岩場を見つけそこで野宿する事になった


『公平に』という

火の番を先に寝かしつけ

男二人で行うようにした

翌日彼女が目を覚ませば怒るかもしれないが

冗談じゃない大体男が二人もいるのに

なぜ女に一人、しかも惚れた女に任せなければならないのか

(情けないだろうが…)

とはいえ今は、二人きり


ケンシロウは、嵐の中周りの様子を見てくると言って出かけたままだ

(まさかそのまま一人で行くとは思わんが…)

ぱちり、と炎が弾ける音がする

焚き火を挟んで彼女に視線を移す

よく眠っているようだ

無理もない疲れたのだろう

いくら鍛えていると言っても

男二人連れの徒歩の長旅によくついてきているものだ

炎に照らし出された寝顔は普段の凛々しい表情とは違いとても穏やかだった

本当にこれが一つの村を束ねる女リーダーかと思うほどだ


そうしていればお前はただの普通の女なのにな…


やりきれなくなる

この旅で

奴に報われぬ想いを向け

ただ見つめるだけのお前を

どれだけ目にしたか…

だが、お前が幸せなら俺は―


物思いに引き込まれそうになる意識を無理矢理引き戻し

周囲に集中させる

そのとたん

『…』

微かに声が聞こえた

再び視線を彼女に向ける

うなされているようだ

僅かだが汗をかいている

『……!』

だんだん酷くなってくる

起こそうと判断し

手を彼女の方に伸ばす

瞬間

ぱしっ!!

手を弾かれ目を覚ました彼女を見る

荒い息、震える身体

青褪めた表情、頬に流れる一筋の滴

『あ…』

俺に気付き慌てて涙を拭う

『レイ、ケンは?』

『ああ、見回りに行っている』

『こんな嵐の中を!?…そう、じゃあ貴方一人に番をさせちゃったのね、ごめんなさい』

『いや…気にするな』

取り繕うな、

『交代の時間ね、後は私がやるから貴方は休んだら?』

無理をするな、

『俺も先刻休んでまだ目が冴えててな』

『え、でも…』

『まあどうしても休め、と言うのなら添い寝の一つでも頼むんだが?』

『!!』

ぎょっとした顔をした後、青褪めた顔が次にはほんのりと赤くなっていく

滅多に見れぬその表情は

愛らしく、つい悪乗りをしてみる

『どうする、一緒に寝るか?』

ずい、と顔を寄せてみる


ずささっ!!

避けられた…

そこまで嫌か

かなり傷ついたが表情には出さず涼しい顔をしておく

『結構よ!!』

慌てて毛布を身体に巻きつけ先程より距離をとられる

『なんだ一緒に寝てはくれんのか?』

『当たり前でしょ!』

それに苦笑し少し残念に思いながら

『明日も早い、よく休んでおくんだな』

『そっちもね!おやすみ!』

毛布を頭から被り眠りにつこうとする

それを確認しながら

『おやすみ』


そう―悪夢など見ぬように



ぱちり、

炎が弾ける

彼女を見れば

規則正しい寝息

寝付いたようだ

先刻の表情を思い出す



かつて、何があった?


目を覚ます直前に聞いた悲鳴のような掠れた声

『…やめて!!』


お前の哀しみはまだ拭えていないのか…?

再び思考の波に飲まれそうになった時

ジャリ…

『!』

『……』

この気配は…

奴が帰って来たようだ。


まあいい

見回ってきた奴には悪いが休ませてもらおう

例え疲れていたとしても”秘孔”で何とかするだろう

本音は奴がいることで安心した彼女の顔をみたくないだけだが…

まあ、八つ当たりだ

そう決めると毛布を羽織り休む体制をとる

視線の先に彼女を捕えながら

いつかお前の心の闇を拭えたら…


それが奴でなく自分であればいいと、願う




ごうごう、ごうごう


カサンドラ―はまだ遠い









長老から話を聞いた後

漸く合点が言った

ケンシロウが村から出て数週間たった後のことだ

村で彼女の両親の亡くなったという日

村の創始者の為に特別何かを行うという訳でもなく

村人達は口をつぐみ、只ひっそりと静かに過ごしていた

特に彼女の周りにはなるべく近寄らず、

遠巻きにまるで腫れ物を扱うように

彼女自身も言葉少なく顔色が悪く倒れるということがあった

寝不足とは言っていたが

その時運ぼうとしたとき酷い怯えを感じた

今までの事があったのだから警戒されても仕方がないと思っていたが

まさか怯えられるとは思っていなかった



両親の亡くなった日=彼女の生まれた日




そして




奴が現れた日




俺と同じ南斗の男




ユダ




寝不足というのは恐らくその時の夢を見てしまうのだろう

暗闇の中あの時のように静かに声を殺して泣いていたのか




怯えたのは―





俺に奴を重ねたからなのか





マミヤ




辛かったか?




苦しかったか?




南斗を




俺を




憎んだか?




それでもいい




俺はじきに逝く身だ

お前の前から消えよう





だがその前に

奴を地獄に連れて行こう




お前の傷が少しでも癒えるように


お前が幸せになれるように




その為



ならば



お前の為に死ぬ男がいてもいい




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